音色
『音楽?何言ってるの』


三年前の、厳しい言葉。

初めてお母さんに夢を打ち明けた時、形の良いお母さんの眉が小さく皺(しわ)を寄せた。

『そんな夢みたいなこと言ってないで、真面目に考えなさい。遊んで暮らせるほど、現実は甘くないのよ』


辛かったのは、どんな言葉で説明しても、どれだけ必死に話しても、“真面目”に言っているとさえ認めてくれないことだった。

常識人のお母さんにとって、普通の学校に通い、普通の会社に務めることだけが“真面目”な人生だった。


私は、自分の部屋で泣いた。

蓑山先生と高校受験を約束する、一週間くらい前の夜だった。


それ以来、お母さんと将来の話をまともにすることは避けていた。


もう、あんな思いはしたくない。


だから私は、お母さんの前ではごく普通の高校生であり続けた。


そのために、私はどれだけ嘘を重ねただろう。

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