音色
この店は基本的にはカジュアルなバーだが、週に二回、ライブを開催している。

水曜と土曜の夜、楽器を持ち寄った名もないアーティストたちが、それぞれ好きなように歌い、弾き、時には踊る。

観客は、目当ての演者がいる人もいれば、たまたま飲みに来たら巻き込まれたという人もいるが、毎回店内が一体となって、明るい熱気に包まれていく。

ここでファンを増やしていった結果、CDを売り出したり、小さなステージで演じられるようになった人も、多くはないが、いる。

「おっ!翔平、今日はお前も一曲やる日か?」

常連客の一人である岩倉さんが、妙子さんの注ぐビールを待つ間に俺を見つけ、声をかけてきた。

「はい!今日はご機嫌なんで飛ばしてきます!」

「なんだ、そりゃわざわざ来た甲斐があったな!」

岩倉さんは、毎回聞きに来てくれている。

だから、おそらく今日も俺が出ることを分かっていて来てくれたのだろうが、なぜか毎回知らないふりをするのだった。
< 104 / 106 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop