音色
水曜の夜、平日だというのに客は少しずつ増えていき、結局今日も立ち飲み客が生じてしまった。

「で?何かいいことあったの?」

ウイスキーをソーダで割りながら、妙子さんが少し小さな声を弾ませた。

グラスに注がれたソーダが氷を揺らし、徐々に熱を帯びてきた店内に心地よい冷気を伝えてくる。

「んー、秘密。また今度話すよ」

「何それ、あんたって無意味に秘密主義だよね!」

そんなつもりはないのだが。



俺が思い出していたのは、土曜の夜、一人で叫ぶように歌う少女の姿だった。


あれは、俺だった。
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