音色
「さっき久しぶりに、尚央(なお)から電話があったのよ」

お母さんは、赤い口紅のまだきちんと色づいた唇を緩ませて、そう言った。

「尚央から?何かあったの?」

「ううん、何となくかけてみたんだって」

「…そっか」


尚央が家に電話するなんて、八月の始めごろ以来だったから、お母さんは本当に嬉しそうだった。



尚央は二つ年下、十五歳になったばかりの私の弟。

去年の今ごろ家を出て以来、一度も戻っていない。


私も両親もひどく心配したけれど、尚央自身はあまり変わらない様子で、ただ『問題ないよ』と笑うだけだった。

だからいつしか、私も尚央が家にいない光景に慣れてしまっていた。

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