音色
「んー…」
なぜか、ふっ、と笑いながら彼は少し考えるような素振りを見せた。
「そうだねぇ。ちょっと内側に向きすぎてるっていうか、そんな感じがするね」
「内側に…?」
「『誰に歌ってるの?』って聞いたでしょ?」
「はい」
「そう…誰かに歌ってる、誰か特定の一人に歌ってる感じがしたのかな」
その通りだった。
「それだとさ、あんまり大衆ウケはしないんじゃないかなって」
やんわりと包みこむように温かい春の夜風に似た笑顔のまま、意外にも彼は厳しい評価をしたのだった。
普段の私なら、そんなふうに言われたらふさぎ込み、黙って帰ってしまっただろう。
でも、その時の私はただ目を伏せただけで、その場に留まっていた。
素直に受け入れられたと言えるかどうかは分からない。
胸に小さな針を刺したような、そうして小さな穴が空いたような気持ちで、私は彼の次の言葉を待っていた。
「ただ…」