音色
黄緑色。
まず視界を埋めたのは、淡くて温かい黄緑色だった。
その春らしい穏やかな空間の片隅、画面の左下に、幼い女の子が座っている。
踊る細い指先は、小さなピアノを弾いていた。
何物も寄せつけないかのような少女の横顔は、視線を鍵盤に落としたまま、それでもこちらに向かって微笑みかけているように見える。
彼女は、前を向いている。
彼女を見つめる目は、言い知れぬ孤独を滲(にじ)ませていたのかもしれない。
明るい黄緑の空間は、彼女から離れていくにつれて、少しずつ濃淡が入り乱れながら暗く、鮮やかに、冷たくなっていくからだ。
彼女だけが、光を見ていた。
ピアノの音は、画面の外へ流れ出し、何も聞こえなかった。