音色

優しいノックの後、顔を覗かせたのは、彩のお母さんだった。

彩に似た、黒く長い髪を右耳の下でまとめた、いつも通りのつつましさで、あたしたちの勉強机に、冷たい紅茶とお菓子を置いてくれた。


彩はすかさず、その小さなマドレーヌの袋を破る。

私は、紅茶にそっと口をつける。

その冷たい甘さが一瞬で全身に広がることで、熱く堅くなっていた自分を実感する。


彩のお母さんの淹れる、少し甘すぎるくらいの紅茶は、この家を包む穏やかな幸せを、私に見せつけるのだった。

彩の家は、いつ訪れても居心地が良かった。



「司沙ちゃんも、やっぱり大学に行くの?」

< 44 / 106 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop