音色
優しいノックの後、顔を覗かせたのは、彩のお母さんだった。
彩に似た、黒く長い髪を右耳の下でまとめた、いつも通りのつつましさで、あたしたちの勉強机に、冷たい紅茶とお菓子を置いてくれた。
彩はすかさず、その小さなマドレーヌの袋を破る。
私は、紅茶にそっと口をつける。
その冷たい甘さが一瞬で全身に広がることで、熱く堅くなっていた自分を実感する。
彩のお母さんの淹れる、少し甘すぎるくらいの紅茶は、この家を包む穏やかな幸せを、私に見せつけるのだった。
彩の家は、いつ訪れても居心地が良かった。
「司沙ちゃんも、やっぱり大学に行くの?」