音色
「うん…」
硬い靴音が、あたし達の前を次々と流れていく。
両手に包まれた、汗ばんだ缶の中で、小さな泡が静かにざわめいている。
「私…」
「ん?」
突然の言葉の始まりを、翔平はすばやくとらえてくれる。
「…こないだ、近所の人が、公務員試験に受かったんだって」
「おお、良かったね」
「おばさんが、お母さんに話してた」
「そっか」
「私も…」
翔平は私のほうを見て微笑んだまま、次の言葉を待ってくれている。