音色
最近、私はよく中学生のころを思い出す。

今日と同じ、進路選択のための懇談の日、担任だった蓑山(みのやま)先生もまた、私に進学を勧めた。

蓑山先生は音楽の先生だったから、私は思い切って、自分の希望を打ち明けた。


『アーティスト?』

『はい、だからその…進学は…』

蓑山先生は穏やかな表情を崩さなかったけれど、眼鏡の奥で泳ぐ瞳から、困惑しているのが分かった。


先生は確かに、音楽の道を進んできた。

でもちゃんと、有名な音楽大学を卒業している、いわゆるエリートと呼んでもいい立場だった。


何より蓑山先生もまた、生徒思いな先生だったから、穏やかな表情も、その奥に隠した困惑も、言葉も、私のためだった。


『しかし、アーティストなんて不安定だろ?たとえ売れても、いつ落ちるか分からない。浮き沈みが激しいというか…』

『……』

『…でもな、先生はお前に諦めろと言ってるんじゃないぞ。何というか…保険をかけとけってことだ、うん』

『保険?』

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