音色
その土曜日の朝は、珍しく少し早く起きた。
白いコットンブラウスに、七分丈のジーンズを合わせた楽な格好で、小さなバッグを斜めがけにして家を出る。
翔平と待ち合わせたいつもの駅から、地下鉄で中央駅まで上り、そこから南下していくことにした。
隣県を南西のほうへ、海岸沿いに下りてゆけば、ずっと先に日本でも有数の美しい海があるそうだけれど、日帰りではとても行ける距離ではなかった。
そのため、中央駅からほぼ真南に半島をたどってゆくコースを選んだ。
はじめこそひどく賑わっていた電車は、南へ進んでゆくうちに、専ら人を降ろすばかりとなった。
次第に緑が増え、静かになってゆく景色を眺めながら、私達は何でもない会話をぽつりぽつりと続けていた。
電車を降りると、古い家々に挟まれた砂まみれの道路の両脇には、潮干狩り会場の細い旗が並んでいる。
お祭りの宣伝のようなその旗とは対照的に、町はあたし達の足音を際立たせるほど静まり返っていた。