音色
海水浴にはまだ少し早すぎる季節だった。
駅から五分ほど歩いたところへ現れた海では、数組の家族連れが、おぼつかない足取りで浅瀬を渡り歩いている。
小さな子どもたちは、スコップやバケツを持ったまま、ゆるやかに寄せる波に押されて、時々パチャンと倒れ込む。
彼らを遠くに眺めながら、私達は貝殻の並ぶ砂浜を通り、波打ち際にしゃがみ込んだ。
薄曇りの空を映した海は、白い光と灰色の闇を代わる代わる翻(ひるがえ)す。
波の向こうに遊ぶ人影は、日光に輪郭をにじませ、あたし達とは違う世界にいるように見えた。
水は温かい。