音色
水中にも無残に割れた貝殻が散りばめられていたけれど、その間をぬって小さなカニがせわしなく駆けてゆく。
抜け殻のように見えた貝からは、小さな足がひらひらと漂うように覗いている。
私は、水底をころころと情けなく転がる小さなヤドカリを手に乗せた。
すると、思っていたより堅い足が、手のひらの皮膚を一歩一歩つかむようにしながら、体を前進させている。
波に足をとられ、流されているかのように見えたヤドカリは、本当は自分の細い手足をしっかりと砂地につけ、自分の思うままに歩を進めていたのだった。
そのヤドカリを、横から差し出された翔平の手のひらに乗せると、彼は小さな子どもをあやすように遊んだ後、再び水中に返した。