音色
「海に行ってきたんだね」
画用紙の上で筆を小刻みに走らせながら、尚央が独り言のように言った。
「そうだよ。でもそんなに青くなかった。こんな色だったよ」
あたしは濁った筆洗い用の水を指差して笑った。
「…だって青って言ってたじゃん」
「もっとよく曲を聞かなきゃ。尚央もまだまだだね」
私が自分の耳を差して得意気に言うと、尚央はムスッとしたまま再び顔を紙面に向けた。
「俺は青い海のほうが好きだし」
あえて原色のままの青を塗りつけられた絵は、一点の曇りもない、幼い子どものようだった。