音色
「ねぇ…野崎なんかあった?」
後ろの席の姫乃(ひめの)が低い声で私に尋ねる。
「うーん、分かんない。最近時々ため息ついてるみたいだけど」
「何でさ、長森は親友でしょ?」
「そんなこと言われても…」
いつも冷静で、一人でも生きていけそうなくらいしっかり者の彩は、あまり人に弱音を吐いたりはしなかった。
それでも、さすがにあのまま放っておくのも心配だった。
今日くらいは、何か話してくれるかもしれない。
「わかった。今日の帰りに問い詰めてみるから」
「さすが長森!任せたよ」
こうして彩のことを気にかけているわりには、他人のことにあまり関心のない姫乃と、気になるけれど聞く勇気がなく、さっきから子犬のような目でこっちをチラチラ見ている愛菜のためにも、私が一歩踏み込まなきゃ。
そう思った矢先だった。