音色
「ねぇ司沙。あの人って何してる人?」
「えっ?」
彩がささやくような声で尋ねる。
あの人、翔平のことを人に説明するのは簡単ではない。
「大学生?」
「違うかな。うーん、分かんないけど、いつも外で歌ってるみたい」
「そうなんだ。あ、だから司沙声かけたんだ!」
ううん、向こうから。
そう言おうとして、止めた。
彩は私が土曜日の夜、一人で歌いに行っていることを知らない。
彼女は私に悩みを打ち明けてくれたけれど、私にはその勇気がなかった。