意味するもの。その先にあるもの。



錆びついた臭いが鼻を刺す。
反響する音。
ただよらぬ重い空気があたりを包む。
睨み合う剛と男。
男の手に握られた光るバタフライナイフが握られている。

バッシャン。

ほんの一瞬 物音へと気が散る。
大きな物音と共に剛に突進していく男。

「剛。」

叫ぶ光一。
剛と男の間に割ってはいるかのように
剛を突き飛ばす光一。
肉を切り裂く鈍い音。
血の生臭い。
光一の体にくいこんだナイフ。
真っ白な服を真っ赤に染めていく。
   
「光一。」

駆け寄る剛。
傷口に手をあて光一の名を叫び続ける。
生温かい血が剛の手をつたい地面に赤い湖を作る。
何もかもがスローモーションのように。
   
「…け…けがしてへんか?」

痛みで引きつる顔。
必死で笑顔をつくる光一。
   
「何言うてん?怪我してんはお前や。こんな無茶しよって。」

光一の身体を支える剛。
   
「よ…かった…。」

咳きこむ光一。
やっとの想いで口を開く。
   
「…お…前の…せいちゃうからな…。」

青ざめていく顔。
激しい息づかい。
意識が遠のいていく。
重くなる光一の身体。
   
「光一。…光一。光一。」

叫ぶ剛。
徐々に失われていく体温。
ピクりとも動かない光一の身体を抱きしめる剛。   




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