まばたき
    「まばたき」

 「涼、今日は晴れたよ。風が気持ちいいね。」
 私は少し窓を開け、雨上がりの柔らかな空気を部屋によびこむ。
 涼は少しだけ目を細め、息を吸い込む。
 私は涼の髪をなで、手をにぎって「じゃあ、仕事に行くね。」と病室をでる。
 
 涼が5歳のとき、離婚をした。なにもわからない涼は、ただ父親が家に帰ってこないことを不思議そうにしていたけれど、小さいなりに聞いてはいけないと感じていたのだろう。私に訳をたずねることもなく、ときおり寂しそうにすることはあっても、私にそれを見せないようにしていた。それを感じていた私も必死だった。小さな涼をひとりで育てていくために、日々がむしゃらに生きていた。
 家事と仕事に追われる私を、支えてくれたのは涼だ。反抗期であるはずの年頃も、いつも笑顔で優しく頼りになる息子だった。勉強はできなかったけれど、サッカーに夢中で、元気で明るくて、ほんとに太陽みたいな子だった。
「男だから」
 そんな理由で、私を守ろうとしていたのかもしれない。心配になるほど、私に心配をかけない子だった。
 
 
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