まばたき
 涼の胃にはチューブがつながっている。そこから栄養が送り込まれるのだ。
朝、昼、夕と1日3回、看護師さんが回ってきてチューブをつなぐ。
「さあ、涼君、ごはんだよ。」と。
 涼の尿道にもチューブがつながっている。ベッド脇に下がった透明のビニールバッグに、涼のおしっこがたまっている。
 2時間ごとにヘルパーさんが回ってきて、涼の体の向きを代える。涼は寝返りをうつことすらできないのだ。
「さっきは右だから、今度は左ね。あら、涼君、今日は顔色がいいね。」
 そしてヘルパーさんが涼のオムツを換えてくれる。
 
 涼はこうして生きている。朝が来て、夜が来て、春が来て夏が来て秋が来て冬が来て、そしてまた春が来る。


 私は涼の手のぬくもりを、心臓の鼓動を感じて、それを感じるためだけに生きている。

 「さあ、涼、お母さん、今日は遅くなるけど、また仕事が終わったら来るからね。」
 涼は、ゆっくりとまばたきをする。        

                                   END






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