まばたき
  
「今週ついに初ライブをやるんだ。母さんも見に来いよ。」
 そう言って、手作りのチケットをくれた。
 ライブハウスに足を踏み入れたのは何十年ぶりだったろうか。地下に続く暗い階段。壁に張り巡らされた手作りのポスター。汗と、タバコと、アルコールの匂い。
「変わらないな」
 ひしめく若い子たちの間をすりぬけながら、私は十代の思い出にひたった。懐かしくて、切なくて、こんな気持ちを思い出させてくれたわが子に感謝した。
 
 小さなステージで、暑い中革ジャンを着て汗を流し、ギターをかき鳴らす涼は、少年サッカー時代のゴールを決めた瞬間のように輝いていた。譜面も読めないくせに、よくここまでオリジナル曲を完成させたものだ。親バカの私は、店中の人に自慢したい気持ちだった。
 涼の曲を最高に引き立てていたのはヴォーカルだ。黒いミニスカートの華奢な女の子だった。かわいくてセクシーで、ものすごくチャーミングな声だった。一目見て、涼の彼女なんだな、とわかった。
 
 
 
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