まばたき
  
 その日は偶然私の誕生日だった。
 涼はボーカルマイクに向かって「ある人へのバースデープレゼント」と告げた。演奏したのは、私の好きなローリングストーンズの「ブラウン・シュガー」だった。ミック・ジャガーとは全然違う、キュートな「ブラウン・シュガー」。 どこで見たのか、涼はこの曲のときだけ、キース・リチャーズを意識して、くわえタバコでギターをうんと低く構えていた。
 この古い曲を、メンバーを説得してやってくれたのだと思うと、うれしくて胸が熱くなった。
 
 専門学校へ入った涼はデザインを学びながら、バイトとバンドに明け暮れていた。
「インディーズレーベルから、CDを出すことになったよ。」
 さりげなく言ったつもりだろうが、どれだけ興奮しているかは、目の輝きでわかった。こんな顔は変わらない。小さかった頃と。

< 4 / 10 >

この作品をシェア

pagetop