月のうさぎに犯されて
健は笑った。
私にはそうやって笑うんだ。
「お前に心配されるほど成績悪くねーよ。あ、でも有紀と同じ学年になれるのはいいかも……」
有紀は呆れて、ため息をついた。
「いいから早く行きなさい。遅れるよ」
「そうだな。あ、もう一つ忘れ物あった」
有紀は首を傾げた。
「え?私、そんなに忘れ物してた?」
「お前のじゃない、俺のだよ」
そして、世界が止まった。
音は止んだ。みんな、健と有紀を見た。
この世で一番平和な瞬間の光景に嫉妬した。
私も、嫉妬した。
「――!」
有紀のまぶたはアメジストがこぼれてしまうくらい、開いていた。