月のうさぎに犯されて
健の匂いが消え去ると、教室は時間を戻されたみたいにうるささを取り戻した。
「もう……。本当ばかなんだから」
そう言って有紀は艶やかになった唇をそっと、人差し指でなぞった。
あの触るようなキスを懐かしむようなしぐさで。
有紀はどこでなら、キスをするんだろう。
求めて、貪って、健の舌に自分の舌を絡めるキスを。
私は二人の理性を失った姿を想像して、制服のポケットにてを突っ込んだ。
白くて小さなビスケットを一つつまんで、口の中にほうり込む。
噛むと、がり、がり、と音が鳴って脳みそがわずかに震えた。
「また薬?大変ね、頭痛持ちは」
「彼氏持ちよりマシよ」
がり、がり。
音が鳴る度、なまめかしい二人の姿は薄れていった。