ココアブラウン
次の日からあたしはてんてこまいだった。

パソコンを使うことができない分、マンパワーが要求される。

大量のデータを一枚ずつファイルしていく。ネットバンキングも使えず振り込みも銀行の窓口まで行かねばならない。問い合わせは相変わらず入ってくる。営業のオトコたちは容赦なく雑用を言いつける。

「先輩、これってどうやるんでしたっけ?」

「さっき言ったじゃない、こことここの記入と決済」

絵里は伝票を片手に毎回のように聞きにきた。同じことを何回も何回も聞く。

「絵里ちゃん、メモとって、同じことは応用して」

「でも、これってシステム使えるまででしょ。覚える必要ないじゃないですか」

絵里は口をとがらせながら言う。いつものお得意の表情だ。

あたしは答える余裕もなく目の前の業務をこなしていた。

チャイムが鳴って12時を告げた。

「先輩、忙しいでしょ。私、新ちゃんとランチ行きますから遠慮しないで仕事してくださいよ」

絵里はファイルの山に埋もれているあたしにそう声をかけると楽しげに食堂へ出かけていった。

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