ココアブラウン
当然のように残業になった。

日中はいつもどおりの仕事、顧客情報漏洩についての調査は勢い就業時間外に限られた。

通信記録。社員のタイムカード。郵便、防犯カメラ。

怪しいものはいくらでもあった。

でも、おそらく最近1ヶ月以内のことだろう。
入手した情報を何ヶ月も手元に置くとも思えないし。

1つ1つチェックして済印を押していく。

それにしても会社の記録は膨大だ。こんなにたくさんの情報の中から探し出せるんだろうか。


砂漠で水を見つけるようなもの。

目がチカチカする。

10時を超えて山本から電話があった。

「ゆかちゃん、終わった?」

「いえ、まだです。せっかくですがまたの機会にお誘いください」

「テキトーにやればいいのに。まじめすぎるよ、ゆかちゃんは」

「立て込んでますのでこれで」

「また、誘うからさ。井上にしたようなこと、俺にもしてよ」

心臓をわしづかみにされた。

山本は何を知ってるんだろう?新が何か話したんだろうか?

違う、カマをかけてるだけ。

動揺しちゃだめ、動揺しちゃ。

あたしは目頭を押さえた。目の中で文字が記号のように黒くぐるぐる回っている。

集中できない。ファイルをめくる指先が他人のもののように思えた。

ファイルを閉じて帰り支度をした。


明日また続けよう。


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