ココアブラウン

舞う

玄関のドアを開けたら生臭い海の匂いが漂ってきた。

さきいかや塩辛、夫は強い香りのものを好む。

家中に充満する匂いに顔を顔をしかめながらキッチンへ入った。

アイランドタイプのこのキッチンはリビングとの境がなくて家族の様子が見渡せるようになっている。

でも夫の手によってキッチンの回りにブラインドカーテンが引かれリビングからは完全に遮断されていた。


「由香里、お前いつもこんな時間に帰ってくるのか？」

「いえ、今は会社でトラブルがあって毎日」

夫は話しだしたあたしを手で押し止めた。

「そんなことは俺には関係ない、亭主を腹を減らしたまま待たせるんじゃない」


言うだけ言うと乱暴におつまみの袋を破る。
今度は濃厚なチーズの香りが漂って汐の匂いと混じり、夫の吸うセブンスターの臭いと絡まってリビングの中は居酒屋そっくりの空気になっていた。


「とにかくさっさとメシ作れ、俺は先に風呂に入る」

「お風呂？今帰ったばかりで沸かしてないです」


チッと舌打ちの音が聞こえた。


夫の頭上に黒い雲がかかってむっつりと黙りこんだ。
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表紙・目次

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