ココアブラウン
雄治と絵里がやってきたのはそれから30分もしてからだった。

あたしは3杯目のビールに飽きてジントニックを頼んだばかりだった。

「遅れてごめんなさーい」

絵里はあたしたちに花が開くような笑顔を向けて。

まったく悪びれた様子も急ぐ様子もなく。

数歩送れて雄治。携帯を耳から離さずゆっくりと歩いてきた。


「ちょっと早かったかな?
新ちゃん、西田先輩と二人っきりの時間を邪魔されてちょっとお怒りじゃないの?
あ、生2つね。
あとみんな飲むからピッチャー。
あと鳥のから揚げとナンコツ、大根サラダ、
ここのオススメって何?」

絵里は雄治のオーダーもあたしたちの意思を確認することもなく、
泡の立つビールを取り寄せ次々に料理を注文した。



雄治はまだ、携帯を離さない。

「西田先輩、こいつにセクハラされませんでした?新ちゃんは手当たりしだいですからね?」

「絵里!人聞き悪すぎ。お前ら俺はともかくゆかちゃん困っちゃってたよ。
もう10分遅かったら俺、ゆかちゃんお持ち帰りしてたね」

新は絵里のゆるやかにカールした髪に指を絡ませるように触れるとコツンと額をこづいた。

やっと話を終えた雄治が席について、ビールを手に取った。



「じゃ、改めて遅れてゴメン。乾杯!」

あたしは3杯のビールに酔っていた。

ずっと考えていた。


もし、遅れてきたのがあたしだったら。



人の意見を聞かずにオーダーすることなんてない。


オトコに触れられて平静を装えない。



「まじめ」




それ以外のあたしの存在ってなんだろう?

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