ココアブラウン
ガタリと音がした。

玄関先で夫を向かえてコートを受け取った。

あたしの鼻先に甘い香りが届く

シャネルのアリュール。


薄くかすかではあったけどはっきりと自己主張する華やかな香り。


「ごはんは?」

「食って来た」

短く答えて夫がリビングに入る。

燃え尽きそうに短くなったろうそくに乱暴に息を吹き掛けた。

「由香里、お前年末で会社辞めろ」

靴下を丸めて放り出す。

まるでねずみにそっくりで寄り添うように脱ぎ捨てられた靴下をあたしは拾い上げた。


−ねずみの夫婦−


夫はいつもまくしたてるように話す。返事もあいづちも期待してなどいない。


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