ココアブラウン
「生意気言うな!」

夫はひどく逆上していた。


殴られる、一瞬肩をすくめたけどあたしはひるまなかった。


「そんなふうだから。家庭を仕事の道具にしようとしたから。だからこの家は監獄になったのよ。だから、美樹さんは外に自由を求めた」

「うるさい!俺は偉くなりたいんだ。金持ちになりたい。そのためには必要なツールはたくさんあるんだ。家族だって、そのひとつに過ぎない」

「オンナも?」

夫はうっと言葉に詰まった。唖然とした顔であたしを見る。


「あたしが知らないとでも思ってた?」

「うるさいうるさいうるさい!ごちゃごちゃ言いやがって浮気は男の甲斐性だ。由香里、嫁き遅れのお前をもらってやった恩も忘れて」

夫は肩で息をしていた。

「そう思ってたんですね。やっぱり」

「だってそうだろう。結局お前だって同じだ。行かず後家になるのがいやで俺と結婚したんじゃないのか?」

「好きになろうとはしたわ。少なくとも」
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