ココアブラウン

夫はうすら笑いを浮かべてあたしを見た。


「お前、そんなこというがお前だって契約違反をしてる」


「契約違反？」


「結婚なんて契約だ。ギブアンドテイクだ。生活と老後と安定の。だがお前は重大な契約違反をしている」

夫は立ち上がるとリビングを出て一枚の紙を持って戻ってきた。


「ほら、見ろ」

それはあたしの健康診断の結果だった。







「お前、子ども生めないんだろ」







勝ち誇ったように言う夫の顔が知らない誰かのように見えた。


「お前、俺が知らないと思ってただろう。ずいぶん前だが、お前がいない間に産婦人科の医者から俺に電話があったよ。検査してくれって。何のことかわからずに詳しくきいたらお前が子ども生めない体だっていうじゃないか。俺は隆太が生まれているから俺の体に問題はない。そんな恥ずかしい検査受けられるかって電話叩ききってやったよ」