ココアブラウン
東の空が明るくなってく。

東雲を越えて黄みを帯びた淡紅色の明かりが新の部屋を照らしていった。

曙、夜が明ける寸前の色。


あたしはいつの間にか眠りに落ちていたらしい。


目を覚ましたら脱ぎ捨てられたスカートとコートが生き物のように乱れていてあたしは
新の姿を探した。

この部屋を見渡す。ワンルームの部屋にはベッドもカーテンも電気のシェイドすらなくてあたしはひどく動揺した。

ただ、昨日のことが夢ではなかった証に燃え尽きたキャンドルが火が消えた姿のまま残っていた。

ー新?-

新の姿はない。どこにも。

あたしは自分の手の中に固い感触を覚えて手のひらを開いた。

ー鍵?-

キーホルダーも何もない一本の鍵を握っていた。


ー新は?-


携帯のアラームが鳴った。7時だ。


会社に行かなければならない。

今日だけは会社にどうしても行かなければならない。


絵里を見届けなければ。


顔を洗うために水道の蛇口をひねった。


だけど。


その蛇口からは水すらでなかった。
< 157 / 207 >

この作品をシェア

pagetop