ココアブラウン
「昨日、西田さんが絵里を呼んだだろ?あのあと絵里はもう一度俺たちのところに戻ってきたんだ」

運ばれてきたコーヒーカップの取ってを持って雄治は口に近づけた。

「飲む気にはなれねえな。きみが絵里になんていったか全部聞いた。絵里は動揺してた。どうしようって泣いてた」


まずそうにコーヒーをすすって雄治は続けた。


「俺は、今は親会社の人間だから立場がある。絵里と付き合ってたって。どうせ知ってるんだろ?西田さん、俺たちが付き合っていたこと」


あたしは目を伏せた。


「俺は管理する側の人間だから報告と処分を下す義務がある。かばえないって言った。絵里は取り乱して泣いた」


かたりとコーヒーカップをソーサーに戻す。


「絵里はでも、きみがすぐに部長に報告せずにかばってくれたから自分で決着をつけるといったんだ。俺は絵里をかばえないけど部長への報告は一緒に行こうと約束して絵里と新と別れたんだ。正直、やばいなって思ったよ。今回の件は親会社でも大きな問題として取り上げられてて。その張本人が俺の愛人なんてね。だから、俺はすぐに報告せずに一日延ばしたんだ。自分の気持ちを整理する時間が欲しかったから」

雄治は両手でカップを包むように持つ。あたしたちの会社にいたころからの変わらないクセだ。


「夜じゅう考えて自分の中で整理をつけた。この会社の事務が総入れ替えになることも覚悟した。西田さん、この仕事がきみの担当だから俺はきみのことも処分を考えたんだ」
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