ココアブラウン
「だけど、今朝早く親会社の役員から決定事項を伝えられた。昨日の夜遅く、新から申出があったって。ずいぶん細かく状況を聞かれたみたいだけどあいつは完璧にそれに答えた」

あたしは自分が言葉を忘れてしまったように思っていた。

どうやってこれまで声を発して来たのか思い出せない。

「漏洩の起きたのは11月13日だろ。あいつのそのあたりの日にちの行動も調べられた。詳細に。だけどあいつは出張なのに13日と14日は行動の記録がない。取引先にもいってないんだよ」

11月13日はあたしといた。まちがいなく。

「だから、親会社は新に漏洩の責任があると判断して処分を決定した。俺はすべてが終わってからこの紙切れ一枚を渡されて発表しろっていわれただけだ」

雄治はもう一度店員を呼んでコーヒーを追加した。
湯気のたつコーヒーが運ばれてまたそれをまずそうにすする。
そしてつぶやいた。

「この店はコーヒーあんまりうまくないよな」

窓の外を見て雄治は吐息をついた。


「俺は朝礼の前に絵里に電話した。絵里はすっかり覚悟を決めて部長に話すつもりでいたんだ。だけど、そんなふうにもう処分は決定されてしまったから絵里には来るなっていった」


「あいつ、俺があれほどいったのに担当も全部譲った。今回も俺に何の相談もなしにこういうことをした。俺はあいつとは兄弟のつもりでいた。俺は移籍になったけどあいつとは会社とかそういうつながりを超えてずっと仲良くしていきたかったんだ」


ちりんとドアベルが鳴って誰もいなかった店内にサラリーマンらしきオトコが新聞を片手に入ってきた。




「そう思ってたのは俺だけだったんだな」



雄治の顔にやるせなさがにじんであたしは胸が詰まった。




あたしは昨日・・・・。





新はあたしに何も言ってはくれなかった。
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