ココアブラウン
次の日、絵里が出社してきた。

げっそりとやつれた表情で。

「先輩」

わっと泣き出してあたしは絵里を更衣室に連れ込んだ。

「新ちゃんが、新ちゃんが」

しゃくりあげながら同じことを繰り返す。

「わかってるから」

なだめるようにあたしは絵里の髪をゆっくりとなでた。

細いさらさらした髪をなでられるうちに絵里は少しずつ落ち着きを取り戻した。

「あの日、私、雄治さんに全部話したの。部長に話すつもりで雄治さんと約束して。雄治さんはわかったって言ってくれて。で、先輩もくびになるかもしれないって言ったの」

「昨日、あたしも雄治さんから話は聞いたわ」

「新ちゃんはそれを聞いたら急に眉を上げて。ゆかちゃんの処分はなんとかならないかって雄治さんに聞いたの」

「井上さんが?」

「雄治さんは「俺は処分する側の人間だからなんとも言えないけど西田さんもなんらかの形で責任はとらされるだろう」と答えていた。新ちゃんは、「普段便利に使うだけ使ってこういうときもゆかちゃんをスケープゴートにするのか」って雄治さんに食ってかかった」

「あたしをかばってくれたの?」

「よく覚えてない。だけど昨日、急に雄治さんから新ちゃんが謹慎だって聞いて、私をかばってくれたんだって思ったらごはんものどを通らなくって」

絵里の大きな瞳にみるみる涙がたまる。


わっと泣き伏してあたしはまた絵里の髪をなでた。
あたしは絵里がうらやましい。

絵里くらいのオンナノコなら大きな動作でしゃくりあげてもさまになる。


あたしくらいの歳のオンナになったら。



泣くならむせびあげるしかない。



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