ココアブラウン
「ココア買いに行ってたんだ。置いてかれたと思ったから。
一人で帰れると思ったから。タクシー拾おうと思って。で」

「はい、ストップ!またテンパッて。
ゆかちゃんがテンパると俺もしゃべれないの。わかる?」


新はあたしの肩を抱いてたたせるとくしゃくしゃになったパンツの泥をたたいた。


「歩ける?」

「ココア買いなおそうか」

新はあたしの手を引いて歩きだした。

数歩離れたところに自動販売機があった。
コインを入れると紙コップのコーヒーがドリップされるタイプのもの。
会社と同じタイプの。
ブルマン・モカ・マンダリン・自動販売機には珍しくコーヒー豆の種類が豊富な。

「会社にさ、これと同じ自販機あるでしょ。で、由香里さんは前に立つといったん考える。で、人差し指がずーっとずーっと一周してからクリーム・砂糖増量を押す」

「そんな細かいこと見てるんだ」

「コーヒー好きならブラックでしょ。いつもあきらめてココア飲めばいいのにって思ってた」

「なんでココアなの?」

「それは俺がココア好きだから。俺が好きなものはみんな好きでしょ。
俺、実はコーヒー、特に会社の気取ったコーヒー苦手なんだ。
でも、取引先も会社のコもみんなコーヒー入れてくれる」

「じゃあ、なんで苦手なコーヒーを飲むの?」

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