ココアブラウン
新がいなくなって1ヶ月が過ぎた。


毎日は川の流れのようだ。


毎日毎日何も変わったようには見えないのに長い時間の中で岸を侵食して地形を変えてい
く。


大雨で増水してもいつのまにか水はひき、すぐに穏やかな流れを取り戻す。

井上新という人物がこの場所にいたことも流されて忘れられたようだった。



あたし以外には。


夫から何度か携帯に連絡は入っていたけど、あの人はプライドがあるからなのかこの会社に電話したり押しかけたりすることはなかった。


だから、あたしは会社の中で変わらない毎日を過ごしていた。


いくら片付けても新の机には誰かの荷物が置かれていた。

隣からは本やプリント用紙が徐々に新の机を蝕んできて、新の存在すらも押し流していった。




もう誰も新のことを話さない。

絵里すら周りの空気をみじんもらさず感じ取って新の話題を避けていた。
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