ココアブラウン
エレベーターを降りて左に曲がると呼吸器科の病棟だった。

受付で407号室を尋ねるとここに来るよう教えられた。

明るいパステルカラーのロビーと違ってここは白く灰色で暗い。

誰もが想像する病院のイメージ。


あたしは胸騒ぎが止められなかった。

不安を押し戻すようにバラの花束を抱えて歩いた。

白い廊下の中であたしのスカイブルーのスーツと絵里のピンクのワンピースは大層場違いな感じがした。

廊下の横には白く無機質な病棟が並んでいる。


同じつくりの個性のない。

人生の終焉を迎えたんだろう。
カーテンが引かれ中が見えないようにされた左側の病室にエンジェルセットを持った看護士が入っていった。

あたしは絵里の持ったかばんを引いて彼女を廊下の端に寄せた。

この場所では健康であることが悪いことのような気がして。



407号室にたどり着く。

ここに来るまで新が入院してるなんてなんだか信じられなかった。

だけど、ドアの左上に「井上 新」と書かれているのを見てあたしの心臓はドクドクと血液を送り出す。

絵里がドアをノックする。

がちゃりとノブを回してあたしたちは中に入った。

< 180 / 207 >

この作品をシェア

pagetop