ココアブラウン
「新ちゃーん!」

ドアをあけるなり絵里はいつもの天真爛漫な絵里で新のベッドの上に迷うことなく飛び乗った。


「なんだよ。いてーな」


眠っていた新は絵里の重みに驚いたんだろう、目を覚まして体を起こした。


「おう、なんだよ。お前ら何しにきたんだよ」

「なによぉ、せっかく顔見にきてあげたのに。お見舞いのお菓子とかないの?」

「絵里、お前・・。それが入院してるヤツに向かって言う言葉か」

「なになに、だって検査入院なんでしょ。サボって体なまってるだろうから気合入れて来いって雄治さんから派遣されました!」


おどけたように絵里が敬礼する。

4人部屋のこの病室は新以外の入院患者はいなくて、絵里が多少羽目をはずしても目くじらを立てる人はいなさそうだった。


「なんだよ、検査入院なんだから。大げさにしたくなかったのにな」

「退院したら親会社だって、雄治さんが俺に連絡がないってすねてたよ」

「なんか、ほんと検査検査で夜はぐっすり。電話するヒマもなかったよ」

「電話一本くらいできるでしょ。検査をいいことにぐーたらしてたんじゃないの」


会社で見るままの新と絵里の掛け合いが始まっていた。


あたしは抱えるほどのバラの花束を生けるために花瓶をさがした。

だけど、オトコ一人の病室にそんな気の利いたものがあるはずもなくてあたしは一人で病室の外に出た。

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