ココアブラウン
水道の蛇口をひねった。

使ってなさそうなバケツに水を汲んで抱えるほどのバラを水にひたした。

そのまま蛇口を最大限にひねって下を向く。


あたしが病室を一人で出たのはバラのためじゃなかった。



あたしは新を一目見て驚愕していた。




ガリガリにやせて目だけがぎょろぎょろと大きくなっていた。

目の下にはくまがまっくろに縁取っていて顔の中で落ちくぼんで見えた。

頬は無精ひげがてんてんと伸びてゴマを振ったようにまばらになっていた。

枯れ木のようになった腕には太い点滴の針が刺されてテープで押さえつけられていた。

新の低い少しハスキーな声はがらがらにかすれて聞き取りにくかった。

喉の横に白いガーゼがはられてその上から包帯が何重にも巻かれてた。

見つかりたくはなかっただろう。ベッドの下には簡易トイレが押し込まれていた。





検査入院?


絵里は疑問を覚えないんだろうか?


検査入院で人がそんなにやつれるはずないじゃない。
< 182 / 207 >

この作品をシェア

pagetop