ココアブラウン
バケツを持っていくわけにはいかず、あたしはバラを流しに置いたまま病室に戻った。

広い病室にバラの香りがふわりと残っていた。

絵里はベッドのはしに座って新にじゃれついていた。


「おみやげ、これも。新ちゃんブルマン好きだったでしょ。だからインスタントだけどコーヒー買ってきてあげたよ」

「絵里、お前やっぱ分かってるな。大人のオトコはブルマンだろ。絵里、俺今は飲めないからさ、退院したら会社のコーヒー入れてくれよ」

「ざんねーん、退院したら新ちゃんは親会社でしょ?また雄治さんにこき使われてかわいそー」

「雄治さんかあ、けんかしちゃったからな。退院したらまた一緒に飲みに行ってくれるかな。まあさ、検査入院だから近いうちに飲もうって言っといてくれ」

「電話ないってすねてるっていったじゃない。雄治さん怒ってたよー」

「大丈夫、大丈夫。俺と雄治さんはブラザーだからさ、一杯飲ませたらアニキ、すぐ機嫌直るよ。あとさ部長にもうまいこと言っといて」

「もう、調子いいんだから。退院したらランチいっぱいおごってよ。親会社に行く前に」


絵里と新の掛け合いはきりがない。

あたしはベッドの横にあったスチールイスに座ろうとした。

座ったら目線が下がってベッドの下の簡易トイレが見えてしまう。

さりげなくスチールイスを折りたたんで片付けてベッドの足元に立った。



明るく振るまう新に気を使わせたくない。
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