ココアブラウン

香る

病室を出ると絵里は流しに置かれたままのバラの花束を乱暴に抱えあげた。

幾枚かの花びらが流れていった。

ぽたぽたと茎から水がたれる。

絵里はかまわずに花束を抱きしめるとエレベーターに乗った。


「絵里ちゃん、せっかくここまで来たからお茶でも飲んで帰ろうか」


絵里はあたしの言葉には耳を貸さずに１階のボタンを押した。

ズーンと音を立ててエレベーターが下っていく。

この病院は新しそうに見えるけど目につくところだけを改築したようでエレベーターは古くきしんだ音を立てていた。

パステルカラーのロビーを抜けて外に出る。

「寒いですね」

絵里はそういってバラの花束を抱えなおした。

絵里のピンクのワンピースに水滴がついてバラのとげが刺さっていた。

あたしは絵里を呼び止めて一本ずつとげを抜いていく。

ひざを曲げてウエストの切り替え部分を折り返した。

思ったとおり腰に結ばれたリボンの内側にまでバラのとげが入り込んでいた。


「西田先輩」


頭上から絵里の声がした。



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