ココアブラウン
「おつかれ」

雄治が黒いネクタイを締めながらあたしたちのところに歩いてきた。


「今日はひどい天気だよな」


雄治はテントの下に入って雨をしのぐ。


「俺のところにあの大馬鹿野郎から手紙が来た。葬儀委員長やって棺かついでくれって。で、遺影は去年の社員旅行の使えってさ」


雨がテントの屋根を伝ってひさしから水滴がたれ雄治の肩を濡らしていた。


「社員旅行の写真ってあのおちゃらけたグアムの写真だろ、あいつアロハかなんか着てチンピラみたいなやつ。あんなもん使えるかっていってやろうかと思ったけどもう文句を言ってやることもできない」


雄治は肩の水滴を払う。


「俺、昨日そのアロハの写真、パソコンで切り抜いた。あの写真どうやって切っても隣に写ってる西田姉さんが入るんだ。だから今日の写真も西田さんの手が少し入っちゃってる」


防水加工された黒いスーツの肩で水が珠になって静かに流れていった。


「あいつ、ほんと大馬鹿だよな。全部一人でしょいこんで一人で片付けようとした。だけど、結局後始末は俺とかゆかちゃんにやらせるんじゃないか」




「かっこつけやがって」



雄治は横を向いた。雨が目に入ったふりをして。

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