ココアブラウン
読経が始まって会葬者がぼちぼち到着しだした。

テントの中からは中の様子は見えない。新の母親らしき人が訪れる人ひとりひとりに頭を下げているのが見えるくらいだった。

雨はしとしとと降り続いて水たまりがあちらこちらにできていた。

ぬかるみに足を取られてか焼香の列もなかなか進んでいなかった。

あたしたちはあらかたの会葬者の記帳を終えて集まった香典を箱におさめ、自分たちも一番最後に名まえを書いた。


「西田さん、絵里。そろそろ」


雄治があたしたちを呼びに来た。焼香の列もずいぶんと短くなってあたしたちは雄治に後を任せて焼香台の前に並んだ。

抹香の香りがする。

前の人たちが神妙な顔で抹香を右目の高さまでおしいだき、そのまま香炉に落し入れていた。


あたしの順番があと2人になってあたしは新の母親と目が合った。

丁寧に頭を下げる。

目元が新の笑ったときの目にそっくりでつい何秒か見つめてしまった。

新の母親が怪訝そうにあたしを見て、あたしはもう一度頭を下げて前を向いた。

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