ココアブラウン
焼香台の前に立って視界がひらけた。

社員旅行のグアムの空をバックにしてみんなで取った写真が大きく引き伸ばされて黒いリボンがかけられていた。

赤いアロハの肩に何気なく置かれた手はネイルや手入れをしていなかった頃のあたしのささくれた手だった。


息が詰まる。

喉の奥からこみ上げてくる。

あたしはそれをつばと一緒に飲み込んで、左脇に抱えたバッグを開けた。




小さなピルケースを取り出す。


中に入れた粉末を抹香の代わりに3本の指でつまみあげた。

そのままたなびく煙を上げる香炉の中に落し入れる。



甘いチョコレートの香りが漂って、隣で手を合わせていた絵里が驚いた顔であたしを見た。



あたしは新の写真に向かって静かに手を合わせる。



ー退院したらまたココア、一緒に飲もうなー



新の写真が笑ったような気がした。
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