ココアブラウン
峠を上り詰めて下を見る。あのときと同じ、眼下に尾鷲が広がっていた。

この道は再生を願って歩く参詣道。

だから、あたしの祈りが届くなら新をどこかで再生させてほしい。

もう現世で会うことはなくても、いつの時代か、どこかの場所で。

一冊の文庫本を広げる。


伊勢物語の最終段 在原業平の臨終の歌が目に留まった。


いつかはみんな最期の道を通る。

だけどそう思ってても昨日今日のこととは誰も思ってない。

新は今、最期の道を通ってるんだろうか?

あたしもいつかそこを通る。今日かも知れないし明日かもしれない。

人の運命なんてわからない。

期限を切られて初めて自分の生き方について振り返るしかないんだ。



あたしは、もう迷わない。



峠のてっぺんで声に出して読んだ。

新ならこの歌を知ってる。


ー30過ぎて文学少年だもんねー



「つゐにゆく道とはかねて聞きしかどきのふ今日とは思はざりしを」
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