ココアブラウン
美樹は唐突にあたしに尋ねた。


「あなた、恋をした?」


ええ、とあたしは微笑みながら答えた。



「身も世もなく?」

「そう、身も世もなく」



美樹はがたんとイスを引いて立ち上がった。




「いいわ、強がってなさい」







「いつか、それが本当の強さになる」






美樹は応接室を出て行った。


美樹にはもう会うことはないだろう。もし会ったとしても今度は「はじめまして」から始まる他人としてだ。


でも。


あたしがこのドアを出たら道で会っても声もかけないような気がする。


あたしと美樹はどこか似ているから。

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