ココアブラウン

立ち止まる

「人事面談、どうでした?先輩」

ランチタイムの食堂では絵里が先に席についていた。


まだ11時50分、昼休みには早い時間だ。

「仕事キリついちゃったし、混むから先に席とっておきましたよ」

「絵里ちゃん、昼休みは12時からだから」

「また、そういうカタイこという!10分早く戻ればいいだけじゃないですか。
着替えの時間とかサービスなんだからこれくらいかまわないでしょ」

「私たちは決められたことを決められたように守って給料もらっているんだし」

「はいはい、明日から気をつけます。で、昨日まっすぐ帰ったんですか」


絵里は運ばれてきたチキンソテーにフォークを突き刺した。

あたしはどうしても12時を過ぎなければ注文をする気になれない。

絵里はそんなあたしに一瞥もくれずに食べ始める。

「私は雄治さんに最近できた壁もいすも全部氷でできてるバーにつれてってもらったんですよ。
サムいんです。
店がエスキモーみたいなコート貸してくれるんですけど、やっぱりサムいんです。
雄治さんがあっためてくれて。

その後営業の人たちが話題にしてたホテル行って。帰ったら4時ですよ。
朝ごはんも食べずに今日会社来るのぎりぎりでしたあ」


ホテル?

「先輩たちの若いころはホテルって言わないんですか?
モーテルとか、もしかして連れ込み宿とか言わないですよね」


12時だ。


あたしは絵里と同じチキンソテーを注文した。


ホテル?



雄治と絵里が?



「何口ごもってるんです?大人でしょ。
深夜にホテルっていったら決まってるじゃないですか」

「でも、雄治さん、奥様とお子さんが・・・」

「ホント何言ってるんですか?オトナの関係ですよ。
私は雄治さんの家庭なんて興味ないし、雄治さんも私の彼のことには触れないし。
楽しかったからいいじゃないですか。
ちょっと今日眠いだけ」



チキンソテーが運ばれてきた。
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