ココアブラウン
「とにかく会社では将来有望な方なのよ。一回離婚しててお子さんもいるけどね。一回も結婚できない人よりいいでしょ。先方の希望が地味でおとなしい人だから。由香里ちゃん絶対合うと思うのよ」

地味なところ買われてのお見合いか。


贅沢言う気はないし、あたしのこと理解してくれる人かもしれない。

10歳も上だし。思慮深い人かもしれない。


会うだけ会ってみようか。


お見合いの席は夫の会社そばの喫茶店だった。
あたしは生保レディの薦めで少しでも華やかに見えるようピンクのスーツを着て行った。

夫は2時間遅れてやってきた。あたしをちらっと見て生保レディに言った。

「千原さん、希望通りじゃないですか。地味だしまじめそうだ。この子なら僕のサポートを文句も言わずやってくれそうですね。前の女房みたいに派手で子ども飾るだけの女じゃないですよね」

「それはもう、私のお勧めの子なのよ。まじめで仕事一本やり。結婚歴もないわ」

「僕の連絡先伝えてください。これから仕事なんで千原さんに全て任せます」




そう。



あのとき夫はあたしと一言もしゃべらなかった。

あたしの地味さのみに言及してほかのことはみようともしなかった。


それでも、あたしは結婚した。


負け犬になれなかったからだ。


結婚式も新婚旅行もなかった。



ただひとつ、条件を出した。


「会社員」を続けること。


西田の妻ではない自分の居場所を失いたくなかった。

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