ココアブラウン
「名刺、渡しておくわ」

ヴィトンの名刺入れから1枚の名刺をあたしのほうに投げた。

煙草を挟み、足を組んだまま。

あたしだって名刺交換のやり方くらい知ってる。

でも、あたしは黙って名刺を右上において書かれた文字を読んだ。



 月刊 RーBOOM 編集部 佐々木美樹




編集者・・。


R-BOOMは20代から30代の働く女性をターゲットにしたファッション誌だ。

あたしも一度だけ買ったことがあった。

掲載されている洋服やジュエリーははどれも高価で華奢で繊細だった。

選ばれた女だけの選ばれた品物。

そんな雑誌を読み、そこに乗っているような生活を送っている女がいることはあたしには信じがたいことだった。



西田の前の妻がそんな華やかな仕事をしていたなんて。


「この家は変わってないのね。センスもない、風水的にもよくないし。
私が住んでたときにずいぶんましにしたのに、
また元通りに戻っちゃったのね。

西田の趣味に」

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