ココアブラウン
「そんなことはもう、私には関係ないけどね」

たっぷりと時間をかけて2本目の煙草を灰にすると美樹は話し出した。

「西田と話しても進まないから直接、あなたと話したいの」

美樹はコーヒーをすする。カップのふちに濃いルージュの跡が残っている。

「隆太の養育費、月10万の約束だったのに先月から振り込まれてないわ。私も仕事しながら子供育てているからそういう約束は守ってほしいわけ」


あくまでも微笑みを絶やさず美樹は続けた。


「この家は西田と私の共有名義になっているわけだし、そういうことも奥さんの耳に入れておかないと。私はともかく、隆太には父親なんだからあなたたち夫婦にはちゃんとする義務があるわ」

美樹は3本目の煙草に火をつける。

ーかなりのヘビースモーカーなんだー

あたしは美樹の会話の内容より指先の美しさに気をとられていた。

コーヒーを入れ替えるために立ち上がると、美樹はあたしの全身を上から下まで嘗め回すように見た。

「見たところ、奥さんにお金かけてるようにも見えないし、この家のインテリアに凝っているようにも見えない。じゃ、オンナね。あの人」

毎日仕事仕事ばかりのあの人が?


いつも疲れていて寝ているばかりのあの人が?


「鈍いのね。
西田が伴侶に選んだのもわかるわ。あの人は妻があれこれ詮索するのを嫌がるから。
アシスタントとかいう女、あれ西田のオンナよ」
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