ココアブラウン
「ここいつも部で使っているところだし、珍しいよね。西田さんがこういう会にきてくれることってないからさ。今日は散々飲んではじけて」

新の屈託のない笑顔が私を解き放った。

店に入ると後輩の絵里がいた。
絵里はストレートの長い髪をかきあげてうれしそうな顔をして迎えてくれた

「どうしたんですか?西田先輩がこういうとこ来るのって結婚以来じゃないです?おとなしく主婦しているかと思ってたのに」

「たまにはいいかな、と思って。今日は洗濯物もないし夫もご飯要らないのよ」

絵里は慣れた手つきで水割りを作りながら新の方を振り返った。

「西田先輩が来て一番うれしいのって新ちゃんじゃないの?いつも先輩のことをかわいいっていってたじゃない?」

箸を持つ手が止まった。

「いやだなあ。本人の前で言わないでくれる?結婚してなかったら口説いてたのに」

「本当ですよ、先輩。いつもいってるもん。私知ってるんですよ。かわいいってみんなに言っているの」

ドク、ドク、心臓が波打ち始めた。

新は軽い。女性社員がみんなそうやってうわさしている。

あたしとは関係のない世界に生きている人。

あたしには家庭があって。

なのにどうして心臓が鳴るの?



それはあたしが新のことを意識しだした瞬間だった。

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